(体験版)

作・飛田流  





 来年正月放送分のバラエティー特番の収録を夜十時に終えた富沢駿とみさわしゅんは、世田谷のスタジオを出てすぐにマネージャー瀬戸が運転するベンツに乗り込んだ。

 首都高速を通って三十分後、外資系高級ホテルに到着した車から降り立った二人は、従業員兼用のエレベーターでホテル最上階のスイートルームエリアに直行し、そのうちの一室に入った。百平方メートルはある広々とした部屋に置かれた、選び抜かれた趣味のいい家具、名だたる画家の筆による絵画など、数々の逸品が駿を出迎える。前回の宿泊時よりも、さらに量と華やかさを増したフラワーアレンジメントが隅々にまで生けられていた。

 駿が月に一度、ひとときの快楽を過ごすために――より即物的に言えば「性欲処理」のために、事務所から用意されたこの部屋に入るたび、二十九歳になった現在でも、自分のタレントとしてのランクはまだそれなりに高い位置にあることを実感し、安堵する。

 壁一面の窓の向こうでは、ビルのネオンとスカイツリーが光を競い合う。

 駿の目の前のテーブルには、表面に露が浮いた銀色のクーラーに突っ込まれたハーフボトルのシャンパンと、大皿に切り分けられた色とりどりのフルーツが並んでいる。だが、今日用意された「スイーツ」はそれだけではない。

 少し離れた場所のテーブルで、アンティークの趣のある椅子に座っていた二十代前半ほどの三人の男たちが、駿に軽く会釈する。裸にガウンを羽織った、この美しい青年たちが、駿に与えられたもっとも甘美な今夜の「ごちそう」だ。

 駿がレザーのチェスターコートを半分脱いだところで、ガウン姿の男たちのうち、長身の青年がすっと立ち上がり、駿からコートを受け取った。

 彼がクローゼットへ向かったと同時に、駿はすぐさまソファーに両脚を投げ出すようにして横たわる。柔らかで適度な張りのあるクッションが、駿の身体を半拍遅れて受け止めた。

「『あいつ』はまだ来ねえの」

 窓際でスマートフォンに目を通していた瀬戸に、駿は体を半分起こし、いらだちを交えて問う。

「収録の後、タクシーでこっちに向かわせたから、もうすぐ来るんじゃないか」

 目的は伏せてな、と瀬戸は薄い唇の端だけを軽く歪めた。クリスマスカラーのスカイツリーを背に、紺のスーツを着た強面の瀬戸が立つ姿は、まるで極道映画の一場面だ。

 彼が駿の担当に付くようになって二年になるが、駿の知らない所では、もっとえげつない仕事もこなしているのだろう。

 ノックの音がした。

 瀬戸は客室扉に近づき、スコープで確認してから、チェーンを外した。

 寝そべりながら駿がその様子を見ていると、廊下から三十代前半ほどの男がぎこちない足取りで入ってきた。図体は大きいが、軽く背を丸めた前屈みの姿勢は、見るからに小心者といった印象だ。

 ぼさぼさの髪、脂が浮いた顔を覆う濃い無精ひげ、履き古して薄汚れただぼだぼのジーンズとスニーカー、駿が一時間ほど前まで出演していた番組の名前が背中に大きく書かれた、ぺらぺらのスタッフジャンパー――と、あまりにも場違いな格好の男は、部屋のどの位置に立てばいいのか迷ったあげくに、駿からかなり離れた壁ぎわで立ちすくんだ。

 半裸の男たちを目にして脅えた顔を引きつらせているこの男は、弱小番組制作会社から一か月ほど前に派遣された大道具担当のアルバイトで、名を黒井というらしい。風采の上がらなさは他のADとなんら変わらなかったが、身長百八十センチ前後ある瀬戸と変わらないほどの背の高さで、なおかつ肉体労働者並みに盛り上がった全身の筋肉は、一か月ほど前、黒井がスタジオで働き始めた当初から目を引いた。小汚い外見も嫌いではない。

 ともあれ、まずはその服の下をすべてご披露してもらうことにしよう。

 ソファーに横たわったまま、駿は長い脚を大きく持ち上げるようにして組んだ。

「早くシャワー浴びてこいよ。汗くせえんだよ、おまえ」

 黒井はぎょっとした表情を見せる。おそらく、彼を含めた世間一般が持っている「富沢駿」のイメージが大きく揺らいだのだろう。半分素人とは言え、裏方であるこの男に偽りの笑顔など振りまく必要もない。

 駿の「裏の顔」を知り、全身をがたがたと震わせた黒井は、定まらない視点をガウン姿の男たちにちらちらと向ける。男たちは冷笑を浮かべ、中には裾を軽くまくり、両腿の奥を見せつける者すらいた。

 血の気の引いた顔で固まったまま、一分以上瞬きを繰り返していた黒井は、

「わ、わがりました……」

 標準語とは明らかに違うイントネーションでぼそりと言い残すと、逃げるように浴室に向かおうとした。

「待て」

 駿に鋭い声で呼び戻され、電池が切れた玩具のごとく、黒井はドアの手前で止まる。

「ここで脱げよ、全部」

 無音のまま、えっ、と唇から発し、救いを求めるように瀬戸へ目を向けた。しかし、

「いいじゃないか、ここには我々男しかいないんだし」

 さもそれが当然であるかのように告げた。

「う、うう……」

「――『わがりました』、だよな、黒井クン」

 瀬戸は、ろう人形のように固まったままの黒井の言い回しを真似、声にどすを利かせた。

 退路を完全に断たれ、唇をかみしめた黒井は、震える指でジッパーをゆっくりと下ろす。金具を最後まで下げ、こわばった顔を心持ち上げたものの、駿、取り巻きの美青年たち、瀬戸のいずれもさげすんだ笑みを浮かべるだけで、誰も制止はしない。

 握った手で紅潮した顔を何度もこすった黒井は、表情を歪ませた末に、ぎくしゃくとジャンパーを脱ぎ、垢じみたよれよれのTシャツ姿となった。だが、その先どうすればいいのわからぬのか、服を手に固まっている。

「床にそのまま置いとけ。おまえの服よりはきれいだろ」

 駿の軽口に、黒井以外の男たちが失笑を漏らす。

 絶望感を滲ませた目を伏せて、黒井はジャンパーを床に置いた。許しを請うように、気弱な視線を駿に向ける。しかし、駿は仏頂面を崩さない。絶望をさらに深めた面持ちとなった黒井はもはや口答えもせず、のろのろとTシャツも脱いだ。

 そして、服の下に隠されていた彼の上半身があらわになった瞬間、薄笑いを浮かべていた男たちは息を飲み、真顔に変わった。それまで寝そべっていた駿もまた、面持ちを変えてソファーに座り直す。

 毛深い体毛は濃い無精ひげから簡単に想像できたことだが、大胸筋は驚くほど発達し、腹筋も見事に割れている。両胸の先端には持ち主の風貌とは対照的に、二つの乳首が誇らしげに飛び出していた。

 黒井は、自分を見つめる男たちの目つきが一変したのに戸惑ったのか、赤らめた顔をまた伏せると、色あせてくたびれたベルトを解き、ジーンズを床に降ろした。

 そこには、競輪選手に勝るとも劣らないほどの太さを持つ大腿筋からすねにかけて、上半身同様毛が濃密に茂っている。

 鍛え上げられたその筋肉はまるで古代ギリシアの裸像のようだが、自身はその毛深さを恥じているのか、情けなさそうな顔のままブリーフ一丁で身を縮こませるようにして立っていた。ただ、股間のぼってりとした膨らみは、中身が並以上のサイズであることを如実に示している。それを想像しただけで、鼓動と呼吸が急速に速くなっていくのを駿は感じていた。

「あのぉ……これも、脱ぐんすかぁ」

「当たり前だろ、おまえは風呂にパンツ履いたまま入んのか」

 それ以上何も言わずに黒井は固い動きで、ブリーフをゆっくり押し下げた。

「……!!

 取り巻きたちの息を飲む音がした。

「……でけえ」

 金色に近い茶髪の青年が半分呆れた顔つきで顎を落とし、口を丸くしている。

 黒井の股間には、大きな両手で前を押さえても、指の先から亀頭がはみ出してしまうほどの巨大な一物がぶら下がっていた。先端がずるりと剥け切っているのはともかく、ふてぶてしいまでの存在感といい、黒光りした色合いといい、名器の風格さえある。

 その場にいた誰もが言葉を失った。

「お、俺、体、あ、洗ってきますぅ……」

 ぼそぼそと言った黒井は背を丸めて、男たちの好色なまなざしを避けるようにそそくさと浴室に向かおうとした。

 がっしりとした筋肉で盛り上がった赤銅色の背中に、瀬戸が、おい、と声をかける。

「この汚い服をいつまでここに置いておくつもりだ」

 あっ、すいません……とぺこりと頭を下げ、床に脱いだ服を両手に抱えて黒井は浴室に消えた。

「さあ、君たちは隣の部屋で待機だ。しばらくしたら、『いつも通り』によろしく頼む。――そうそう、アイツは……ノンケ、っていうのか? だから、君たちがリードしてやってくれ」

 瀬戸の指示にうなずいた青年たちは、ぞろぞろと隣室に移動した。先程驚嘆の声を漏らした青年直哉なおやは、

「アイツのチンポ、すっげえデカかったっすよね。オレ、しゃぶるとあご外れんじゃねーかな」

 軽口を叩いてから、隣室に入った。一か月ほど前に入店したという彼は、初めての顔合わせから、以前より駿のファンだったとすり寄ってきた。頭の中身はいかにも軽そうだが、悪くない見た目から“夜伽よとぎ”の相手の一人に選んだ。

 直哉を含めた青年たちが在籍するのは、一般には一切宣伝をしていない会員制の高級ウリ専――男性同性愛者向けの風俗店で、芸能人や政治家、やんごとなき血筋の御曹司などが主に利用しているらしい。秘密厳守をうたうのは当然として、キャスト、つまり従業員ボーイも、顔・体型ともに最上級の人材のみ取り揃えているという。

 だが、厳重な口止めをもってしても、ある理由・・・・から、駿への「ゲイ疑惑」は常に付きまとっていた。

 駿が芸能界に入ったのは十代の半ば、現在の事務所が主催するミスターコンテストに応募し、特別賞に入賞したのがきっかけだった。公式のインタビューでは「偶然雑誌で募集広告を見かけて、ノリで応募した」と答えているが、裕福とは言えない母子家庭で育った駿は、実のところ野心のかたまりであった。

 父親が脱サラをして始めたスイーツの販売事業が、ブームの終息で二年も持たずに廃業となり、その際に生じた数千万の借金が元で、駿が十歳のとき両親は離婚した。スナック勤めで生活を支えた母は元夫の無謀さを事あるごとに非難し、駿にも堅実な人生設計を説いていた。そんな母が息子の芸能界入りなど許すはずもなく、芸能活動を許可しなかった高校を無断で中退したことも火に油を注ぎ、勘当に近い形で事務所の寮に入ることとなる。

 ゲイの噂が流れていた事務所の社長に自分から近づき抱かれたのは、それからすぐの春だった。効果はてきめんで、半年後の秋には女性アイドル映画の相手役に抜擢され、立て続けにドラマの主要な役柄に起用された。

 さらに翌年、初主演したサスペンス連続ドラマがヒットし、駿は人気俳優としての確固たる地位を手に入れることとなる。社長に費用を提供してもらい、整形に手を出したのもこの頃だ。野暮ったい印象の残る一重を二重にし、低い鼻筋もシリコンで整えた。

 以来、男であろうと女であろうと、富と権力を持つ人間とは誰とでもベッドを共にしてきた。中でも大手企業の社長からは特に気に入られ、デビューから六年目、大河ドラマへの出演が決まった年に、ベンツとタワーマンションの上層階の一室を買い与えられた。時を同じくして、母親が突然事務所に連絡をし、駿に金の無心を頻繁にするようになった。過去の発言を撤回するわけでもなく、家計の窮状を並べ立てるばかりの身勝手さには寒気に似た嫌悪を感じたが、下手にこじらせてはタレントとして命取りになる。事務所の顧問弁護士に依頼し、まとまった金を渡す代わりにマスコミの取材には一切応じないよう契約書を交わした。

 これらのスキャンダルは、事務所によってすべて揉み消されてきた。

 一部の週刊誌が、社長と所属タレントの「ゲイ疑惑」を初めとして、テレビ局・一部スポンサーとの癒着を批判するキャンペーンを繰り広げることもあるが、テレビ局はもちろん、スポーツ紙も右にならえと徹底的にそれを無視する。ドラマ・バラエティー・情報・ニュースとあらゆるジャンルの番組に多数の自社所属タレントを送り込み、彼ら抜きでは番組どころか経営から成り立たないほどの権力を持つ、巨大芸能事務所の闇をわざわざ晒すことは、マスコミの自死行為にも等しい。

 一方、長年の“夜の営業”は、月に二、三回尻にぶち込まれないと満足できない「副作用」を駿の体にもたらした。事務所も心得たもので、社長が後輩タレントに興味を移した頃合いを見計らって、駿の「そちら」の面倒も見てくれることとなった。もちろん、タレント管理の意味合いも大きいのだろうが。

 瀬戸が駿のために高級ウリ専から揃えた二十代初めの若者たちはみなとても美しい顔だちだった。とくに直哉に至っては、きわめて短期間だが、有名なタレント養成所に通っていたこともあるという。しかし、美しすぎる彼らに、セックスの相手として駿はどこか物足りなさも感じていた。

 駿と二人だけになった部屋で、瀬戸は笑った。

「シュンも物好きだな。俺には単に鈍臭い男にしか見えんが。――まあ、あのチンポのデカさにはちょっとビビったけどな」

 しかし、駿の視線が、自分でなく浴室に向けられていることに気づいたのか、

「まったく、ゲイの世界は俺にゃわからんよ」

 半分呆れたように言い残し、じゃあな、と廊下に出た。この男はこの男で、事務所の金を使って別室で女と「遊んで」いるらしいが、駿も同じ穴のムジナである以上、あえて追及するつもりはない。

 一人きりとなり、駿は久々に高まる心を抑えるように深呼吸をしてからソファーを立ち上がり、胸元のシャツのボタンを三個ほど外す。グレージュチノのパンツの下は、思わぬ「収穫」を目にした時からぎりぎりといきり勃っていた。

 二年前、共演がきっかけで「親密な関係」になった独身大物時代劇俳優から贈られたペンダントも取り外し、ジャケットのポケットに放り込んだ。レザーが外周を覆うシルバーリングをトップにしたそれは、大物俳優の箱根の別荘で抱かれた後に、脂性の大顔を近寄せて、「僕と駿の永遠の愛のあかしだよ」と臭い息を吐きながら差し出されたものだ。笑顔で受け取りながら、大物俳優の次の主演時代劇で、最後に彼自身が斬られることを強く願った。

 引き締まった胸板を大きくはだけた駿は、浴室のドアを静かに開けた。りガラスの向こうで黒井がシャワーを浴びる音がする。

 脱衣かごを覗き込むと、黒井が身につけていた服と下着が、丸めて入れてあった。ふと視線が釘付けになり、足が立ち止まる。汗と男の濃厚な臭いが鼻腔から体内に取り込まれるごとに、じんわりと頭の中が熱くなり、甘やかで生暖かい霧が身体の隅々にまで広がっていった。

 気が付くと駿はかごを覗き込んで、中に手を突っ込み、ブリーフをつまんで取り出していた。社会の窓の部分が黄ばんでいるのが生々しく、劣情をそそる。

「……」

 誰も見ていないことがわかっていても、タレントとしての習い性か、何度か辺りを確認してから、それを鼻先に近づけた。

「……ん、むぅ」

 なんとも言い様のない、汗と小便と陰部臭の入り交じった、きつい臭いだ。

(たまんねえ……野郎の脱ぎたてのくっせえ下着だ……)

 ペニスの先から、淫らな液体がじわりと染み出てくるのがわかる。

 駿は、空いた左手でズボンの膨らみを軽く撫でた。これまで肌を合わせたことのない雄臭い体が、まもなく自分のものになる。そう考えただけで心臓が激しくリズムを打ち始め、沸き立った血潮がぐるぐると全身を駆け巡っていった。

 ブリーフの雄臭を思う存分嗅ぎながら、駿はチノパンの股間を徐々に力を入れてこすり上げる。その下では、急速に血が集まった肉茎がさらに固さを増していた。

「おぉぉぉ……ふっ、ん、んんっ、ぁぁ、っ」

 体が震え、息が荒くなる。太腿の辺りから、肌を刺すように快感が込み上げてきた。

 臭気と妄想と、直接的な刺激で上り詰めかけたその時。

 気配を感じた。



 無料体験版はここまでです。この続きは本編でお楽しみくだ さい。  


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